愛蘭土星学(アイリッシュ・アストロノミー)

所が、意外にも、それが全然異なった形となって、伸子の心像の中に現われてしまったのだ。と云うのは、ラインハルトの『抒情詩の快不快の表出』と云う著述の中に、ハルピンの詩『愛蘭土星学(アイリッシュ・アストロノミー)』の事が記されてある。その中の一句――聖パトリック云いけらく獅子座彼処にあり、二つの大熊、牡牛、そうして巨蟹が――とその巨蟹(Cancer)と云う個所に来ると、朗読者は突然、それを運河(Canalar)と発音してしまったと云うのだ。つまり、その朗読者が、それまで星座の形を頭の中に描いていたからで、所謂フロイドの云う――言い損いの表明にこびりついている感覚的痕跡――に相違ないのだ。

「アストロノミー」を「土星学」と訳してしまう*1ところが実に虫太郎クオリティであるが、やはりここは「土星学」でないとおさまらないところである。そしてこのハルピン(Charles G. Halpine)の詩は珍しく実在して、のみならず結構有名な詩のようである(googleで検索すると沢山ヒットする)。「アイリッシュ・アストロノミー」の詩は例えばここにその全文が載っている。
 

*1:*素天堂氏よりメールで指摘をうける。愛蘭・土星学ではなくて、愛蘭土・星学とのこと。そうか! すみません素で間違えていました。でもやはり土星学の方が魅力的と思います。