シュレーダー『生体磁気説』

「ウン、たしかに心霊主義スピリチュアリズムだ」と検事が暗然とつぶやくと、法水はあくまで自説を強調した。

「いやそれ以上さ。だいたい、楽器の心霊演奏は必ずしも例に乏しい事じゃない。シュレーダーの『生体磁気説レーベンス・マグネチスムス』一冊にすら、二十に近い引例が挙げられている。しかし、問題は音の変化なのだ。ところがさしもの聖オリゲネスさえ嘆称を惜しまなかったと云う、千古の大魔術師――亜歴山府アレキサンドリアのアンティオクスでさえも、水風琴ヒドラリウムの遠隔演奏はしたと云うけれど、その音調についてはいっこうに記されていない。また、…… 
青空文庫『黒死館殺人事件』より

 久しぶりの黒死館蔵書です。

 H.R.パウル・シュレーダーという人の『生体磁気説と催眠術の歴史』という本は見つけた。だがこれは、64ページくらいの薄い本、というかパンフレットである。当然心霊演奏の二十に近い例などは載っていない。これとは別のシュレーダーの本なのだろうか。そもそも生体磁気(動物磁気)の本に心霊演奏のケーススタディーなど載っているのか、あらためて考えてみるとちと眉唾なような気もする。ああまたもや虫太郎マジックにひっかかってしまったか……