モーリス・ルヴェル女性説について

本の山を崩しながら大和書房版『巌谷小波お伽文庫』を探していたら唐突にマーヴィン・ケイのアンソロジー"Devils & Demons"が出てきた。何を隠そう、この本こそが、6月5日の日記に書いたモーリス・ルヴェル女性説の元凶でなのである。そういうわけで、いのもけ話を一時中断してルヴェルのことを書こう。

この本のあとがきでケイの語るところによると、ワシントンD.C.にある国会図書館のカード・カタログではルヴェルの本名がJeanne Mareteux-Levelとなっているらしい:

アーヴィング(ルヴェル英訳短編集の序文を書いた人)によれば、モーリスはアルザスの陸軍将校の息子で、少年時代のほとんどをアルジェリアで過ごした。パリで医学を修めたが、1910年、彼が25歳のとき、スイスでスケート中に事故をおこしたため4年ばかりサナトリウムで療養。1914年に退院し、健康上の理由で引退するまで陸軍に所属していた。その後陸軍基地で外科医として勤務した。[…]しかし、国会図書館のコピーライト・カード・カタログには明瞭にモーリス・ルヴェルはJeanne Mareteux-Levelの筆名であると記載してある。将来仏文学専攻の学生か誰かの調査により謎が解けるまでは、真相はコピーライト・オフィスの過失であるか、あるいはアーヴィングの前書きが根も葉もない嘘であるかのどちらかであると結論せねばならないだろう。仮に後者が真実だとしても、責めは必ずしもアーヴィングに帰すべきものとは限らない。ルヴェルの小説のサイコセクシュアルな衝撃性を考えると、謎のJeanne Mareteux-Level嬢が、自分の正体に煙幕をはるため、アルテル・エゴの経歴をもっともらしく捏造したという可能性も十分考えられるからである… (Devils & Demons pp.575-576)

ルヴェルの伝記的情報については、機会を見て調べてみようと思う。マルセル・シュオブの従兄弟説が本当に本当なのかとか… それはともかく(急に話題が変わるが)マーヴィン・ケイのたくさんのアンソロジーのうち何冊かは、かのエドワード・ゴーリーがジャケットデザインを手がけており、たいそう魅力的な本に仕上がっている。これもまた機会さえあれば書影をアップしてみたいものだ。