ゾナ・ゲイル(1)

 
 
 アメリカの女性作家たちの怪談集である。メアリ・ウィルキンス・フリーマン、ウィラ・キャザー、エレン・グラスゴー、イーディス・ウォートンと目次に居並ぶ淑女たちの名を見て、きゅーんと胸が締めつけられるような気がするのはわたしだけだろうか。

 二度目の大戦に頭を突っ込んだあたりからなんだか変な国になってしまったけれど、それまでのアメリカはいい意味での田舎、カントリー・ジェントルマンとカントリー・レイディたちの国だった。なかにはニューヨークとかシカゴとかいう物騒な町もあったかもしれないが、そんなのはアメリカ全土からいえば米粒ほどの位置しか占めてやしない。何もないだだっ広い田舎――言うまでもなくそれは、夢見る者の王国だ。『オズの魔法使い』だってカンサス州の「見渡す限り灰色の」草原がなくては生まれなかっただろうし、だいいちラヴクラフト翁にしても、アメリカ以外の国から出現するとはちと考えにくい。

 それはそれとして、今回の本で一番うれしかったのはゾナ・ゲイルの短編が収録されていたことだ。そう、あのヨネ・ノグチが翻訳というか翻案というか合作というかした『幻島ロマンス』の作者である。この時期のフィメール・ドリーマーたちのなかでもその天然において一等抜けているあの彼女である。

 この本に収録されている「新婚の池」は"Bridal Pond"という短編集のなかの一篇だ。この短編集が実に端倪すべからざるもので、どう考えてもつじつまの合わない話ばかりが収められている。日本でいえば都筑道夫のある種の短篇――たとえばちくま文庫の『阿蘭陀すてれん』に入っているような怪奇小説に近い味だと言えば分かってもらえるだろうか。この手のストーリーは頭で考えてひねり出せるようなものではない。天然の天然たるゆえんである。興味をもたれた方はこの本を購い「新婚の池」を賞味せられたい。