2023-01-01から1年間の記事一覧

中世フランス詩という魔笛

毎度お騒がせの国書刊行会がまたまたすごいものを出した。宮下志朗氏の翻訳・註解による『ヴィヨン全詩集』である。問題の国書税も『マルセル・シュオッブ全集』などに比べればだいぶ手加減してくれているのがありがたい。日本国も国書に倣って減税をしてく…

浜辺のポウイス

うみの図書館近くで開かれた海辺ブックフェスをのぞいてきました。絶好の連休日和に恵まれてものすごい盛況でした。浜辺沿いにずらりと並ぶ古本出店。振り返って海に目を向けると子供たちが波と戯れています。裸足で浅瀬にジャブジャブと入って砂浜近くに流…

闇に一条の光

日本翻訳大賞のツィッターが寄付を募っていた(詳しくはここをクリック)。「かなり苦しい状態ではあります」とのことだ。義を見てせざるは勇無きなり。さっそく雀の涙ではあるが寄付金を振り込んできた。「途中でやめたら承知せんぞ」という圧を関係者が感…

恋二題

「恋二題」は乱歩の最初期の作品で、二つの短篇「恋二題(その一)」「恋二題(その二)」からなっている。これらはのちにそれぞれ「日記帳」「算盤が恋を語る話」と改題されて単行本におさめられた。この二篇や「恐ろしき錯誤」「疑惑」などのいわばサイコ…

平井呈一と吉野家コピペ

今回の『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』には、平井呈一の推理小説関連のエッセイがまとまって収録されている。平井が推理小説について語った文章はおそらくこれで全部ではあるまいか。解説では書く余裕がなかったがこれも今回の集成の目玉であろうと思う。…

とほい空でぴすとるが鳴る

また佐野洋を読みました。例によって「佐野洋のどこがそんなにいいんだ」というようなクレームは却下です。さて今回は『十年物語』という短篇集。1997年に文庫オリジナルで出た本です。ですから晩年の作といっていいでしょう。「とほい空でぴすとるが鳴る」…

『腿太郎伝説』を読んでしまった

サイン本が乱れ飛んでいるとかいう世紀のウルトラ大怪作『腿太郎伝説』。ついに読んでしまいましたよ。今の気分は「どうだ……読んでしまったか」と正木博士に話しかけられた呉一郎です。キャラがメインか? 漫才がメインか? ストーリーがメインか? というく…

ピアノは打楽器

昨日書いたようなわけで、近ごろは荻窪ミニヨンにしげしげと通っていて、あたかも仕事場のようになっています。ここは名曲喫茶としてはルールがゆるくて、パソコンを打っていても怒られないし、会話も普通の声ならOKです。ただし携帯電話はだめ。しかしその…

いま訳しているもの

いま翻訳しているものを村上春樹風にいえば、「世界の終わりとクラシック音楽・ワンダーランド」みたいな感じになるかもしれません。荻窪の名曲喫茶「ミニヨン」にひんぱんに通っては作中に出てくる曲をリクエストし、訳をチェックし、あわせて作中の雰囲気…

セルビアの星新一

盛林堂ミステリアス文庫から渦巻栗氏の訳でゾラン・ジヴコヴィチ『図書館』が出ました。こいつはすばらしい! ゾラン、ゾラン、ゾラ~ン、はるかな宇宙か~ら~——いやなんでもありません。一読して驚くのは星新一そっくりなことです。それも後期星新一、つま…

盛林堂で『アーカムハウスの本』を買う

今日は西荻まで出かけて『アーカム・ハウスの本』を買ってきました。あいにく店主は留守でしたが……こういうリストは大好きなのでさっそく舐めるように読みましたよ。なんという至福の時間。邦訳情報には気の遠くなるような手間がかかっていると思います。『S…

『沖積舎の50年 増補版』

同社より『世界最古のもの』『セルバンテス』が出た縁で、『沖積舎の50年 増補版』を贈っていただきました。どうもありがとうございます。国書刊行会と同じころのスタートだったんですね。なんとなく六十年代からあったように思っていました。この本では五十…

『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』

藤原編集室の『本棚の中の骸骨』ですでに公表されているとおり、『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』の解説を書きました。これは『幽霊島』『恐怖』に続く平井呈一怪談翻訳集成の第三弾です。少し前に東雅夫さんの解説による『世界怪奇実話集 屍衣の花嫁』も…

小野塚力氏への対応

昨日のブログ (削除済み) にも書いた通り、その後小野塚氏よりメールが来なくなったので、直近の三エントリ「小野塚氏の高飛車メール」「小野塚氏の高飛車メールふたたび」「その後の小野塚氏」を削除し、エントリ「一人三役疑惑」を修正した。もっとも削除…

一人三役疑惑

日ごろから愛読している『銀髪伯爵バードス島綺譚』によると、杉山淳さんの『怪奇探偵小説家 西村賢太』がヤフオクで59,000円で落札されたそうです。すごいですね。大好評を博していることがうかがわれます。ちょっとこの本に興味がわいてきましたが、肝心の…

『国書刊行会50年の歩み』

カラーページが16pもついた超椀飯振舞・大豪華冊子『国書刊行会50年の歩み』を送っていただきました。どうもありがとうございます。 表紙からして眼とかドクロとかバラバラの手足とか気色の悪いゴシック趣味が横溢してますが実は中身はもっとすごい。「用…

どんでん七傑

『本の雑誌』3月号の特集はどんでん返しである。ついにどんでんが来たか!——と言うと違う意味になってしまうが、ともかく表紙にはでかでかと「どんでん返しが気持ちいい!」とうたわれている。さっそく特集の驥尾にふし、読後あぜんとしたどんでん返し七傑…

腿太郎の誕生

腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)作者:深堀骨左右社Amazon あの深掘骨氏の新作が今月24日に出るというので世間は騒然としている。しかも岸本佐知子氏の推薦つきで。きっと「他の誰にも絶対に書けない小説を書こう」という固い決意があるのだろう。あるいは最初…

怪談の訳註

あるアンソロジーのために怪談の短篇を一つ訳した。そのとき少し悩んだのは怪談に訳註はどうあるべきかということだ。訳したのはストレートな怪談で、おそらくポーの影響をたっぷり受けている。すなわちあらかじめ計算された展開のなかで雰囲気をジワジワと…

消えないうちに読もう

『都筑道夫の読ホリデイ』にこんな ↑ 一節がある。「やたらに本が消える」とはおだやかでない。大変失礼な想像で恐縮なのだけれど、大胆な想像をあえてすれば、もしかしたら都筑夫人は、都筑氏の留守中に本が届くと「ああまた本が増えた。片付かないったらあ…

ヨーロッパに船出する高丘親王

『みすず』の読書アンケート特集を見ていたら、宮下志朗氏が『高丘親王航海記』の仏訳をあげておられました。仏訳が去年出てたんですね。全然知らなかったので驚きました。ちなみに訳者は先に『ドグラ・マグラ』を訳されたパトリック・オノレ氏です。検索し…

この輝かしいサインを見よ!

国書刊行会史上初の発売前増刷を達成したという『迷宮遊覧飛行』。前に『アフター・クロード』でアマゾン順位三ケタは初めて見たとこの日記で書いたら、『三ケタなんてしょっちゅうだ!』と版元からお叱りをいただきましたが、さすがに発売前から三ケタとい…

J.T.ロジャーズ『恐ろしく奇妙な夜』

全国のクラシックミステリファンが首を長くして待ったであろう怪作家 J.T.ロジャーズの中短篇集がついに出た。しかも夏来健次氏の訳で。さっそく一読したが、期待を裏切らない響きと怒り——じゃなくて笑いと驚愕に大満足の一冊だった。集中の作品の多くは三文…

積読を避けるコツ

(これまでのお話)『本の雑誌』2月号を読んだプヒ氏は、年が明けてまだ一冊も本を買っていないことを反省した。そこでさっそく本屋に出かけた。そこで買ったのが去年買い逃していたこの本 ↓ である。 買った本を積読にしないコツ。それは「一度に一冊しか…

文学フリマ京都御礼

遅くなりましたが 1/15 文学フリマ京都に来てくださった皆様、ありがとうございました。おかげさまで売り上げも上々でした。今回の京都行きの目的は三つありました。1.文学フリマに出店する。 2.文学フリマで『蒼鴉城』を買う。 3.烏丸御池駅構内の大…

怪異作書教

思いがけぬプリンタ不調のため、昨年11月の文学フリマ東京で新刊を断念せざるを得なかったプヒ氏。雪辱戦とばかりに、明日に迫る文学フリマ京都のためにプリンタ新調という暴挙に出た。さいわいブラザーから二万円ちょっとでカラーレーザープリンターが出て…

怪異買書教に入信すべきか

本の雑誌476号2023年2月号本の雑誌社Amazon 『本の雑誌』2月号で喧伝された怪異買書教。その教義はただ一つ——「本を買え。天に届くまで積み上げろ」。そうすれば30年後か40年後に御利益があるという。それから信者の間ではこんまりは人心を惑わす悪魔の使い…

怪異買書教

『本の雑誌』2月号の特集は「本を買う!」。特集ページを開くといきなり中野善夫さんが「本を買え。天に届くまで積み上げろ。」と号令している。おそろしく気合が入った特集である。池澤春菜さんの『SFのSはステキのS』に付されたCOCOさんの挿絵をほうふつ…

新年早々うれしいニュース

新年早々、うれしいニュースが流れてきた。あの伝説の彼方に消えたと思われた工藤幸雄訳『サラゴサ手稿』がついに出版されるという(情報ソースは昨年末の「読んでいいとも年末特別篇」での東京創元社の発表)。「今二十一世紀に入って最初の訳書がフランス…