ヴィヨンと皇帝ネロ


 

ヴィヨンといえばこの機会に大々的に宣伝したいのですが、拙訳『イヴのことを少し』にもヴィヨンは出てくるのですよ。しかもあの皇帝ネロと友だちでいっしょに旅しているのです。文字通りの悪友ですね。悪者でありながらどちらも文学に憑かれていた二人をペアにするというところに作者キャベルの着眼が光ります。

この『イヴのことを少し』は、少なくともアマゾンの順位で見るかぎりでは、わが訳書の中でダントツに売れていない本なのです。今見たら順位1,000,000位という国書史上でも未踏の領域に近づきつつあります。おお……

何が悪いんでしょうね? あんなに面白いのに。もしかしたら煉獄の炎でカバーを焼かれたほうがよかったのか……。あるいは三冊シリーズの第二巻なので、まず『ジャーゲン』から読まなくては、と思った人がいるのかもしれません。そこで声を大にしていいたい。『イヴのことを少し』はこれだけ単独で読んでも全然大丈夫! ですから『ヴィヨン全詩集』を買う人はもれなく『イヴのことを少し』も買ってくださいね。二冊合わせても『マルセル・シュオッブ全集』より安いです。


ここで鎌倉のほうからタレコミあり。花田清輝『復興期の精神』の中の「楕円幻想 ─ ヴィヨン」の初出にはヴィヨンの花田訳が入っていたそうです(単行本では削除)。



なかなかいい味を出してますね。もっともこれも渡辺一夫に見せたら「ヴィヨンとはこんな方ではなかったと思いますが」と慇懃無礼に言われそうですが。