旱魃世界

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 J.G.バラード『燃える世界』が『旱魃世界』というタイトルで山田和子氏の新訳で出た。なんと嬉しいことであろう。しかも今回はイギリス版のテキストが元になっていて、旧訳とは底本の段階で相当に異なる。

 わたしは山田氏の「ついてこれない人は無理についてこなくていいのよ」みたいな愛想のない訳文が大好きだ。アンナ・カヴァンとかこのバラードとかの硬質な文章に氏の訳文はことさら似合うように思う。

 だってタイトルからしてそうではないか。『燃える世界』が嫌なら『乾いた世界』とか『干からびた世界』あたりにしておけばいいものを『旱魃世界』ときたもんだ(本当はただ『旱魃』とだけしたかったのかもしれない)。わたしならどうするだろう。『干物世界』とか? ともあれ編集された方から恵贈していただき、さっそく一読し堪能した。ありがとうございました。
 


 
 むかし早稲田の五十嵐書店がまだ明治通りのそばにあった頃、NW-SF社の廃棄本がどどどっと出たことがある。もちろん狂喜乱舞して死ぬほど買いまくった。中にはNW-SF社の印とともに山田氏の蔵書印のあるものもあった(もちろん同姓の別人の方の印かもしれないが)。

 ディレーニ―とマリリン・ハッカーによる伝説のアンソロジー ”Quark #1” では、山田氏の蔵書印の上からNW-SF社の社印が捺され、さらに上のほうに新たに山田氏の印が捺されている。もしかすると壮絶な争奪戦があったのかもしれない。

 
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 こちらはやはりNW-SF社放出本で、ついにサンリオでは出なかった ハリスン&オールディス共編"Year's Best SF No.3" の目次ページ。訳者の割り振りらしきものが鉛筆で記されている。おおそういえば「殺戮の台地」も名訳だった! 今は東京創元社の『バラード短篇全集4』で読めます。
 
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