楕円の顔

小説を読んでいると、美女の形容として、「楕円(Oval)の顔」というのがたまに出てくる。このブログで去年とりあげた『最後の審判の巨匠』にもこの形容があった。そして今翻訳している小説にもこの形容が出てくる。常套句というほどではないにせよ、少なくとも奇異な感じを与える形容ではないようだ。しかし日本語にすると奇異な感じがするのはいかんともしがたい。

単に読むだけなら美女の顔が楕円であろうが三角であろうが気にはならないが、自分が訳すとなるとやはり気を使う。直訳の「楕円の顔」では美女という感じがしない。Ov-の原意を生かした「卵型の顔」はややましだが、それでも美女感はいまひとつか。というよりもキリコの絵が目に浮かんでしまう。それに日本語では「玉子に目鼻をつけたような」という形容は、どちらかというと美女よりは、かわいくてあどけない感じの少女に用いられるような気がする。

ある方の訳書では、oval faceを「面長の顔」と訳してあった。たしかに「楕円」や「卵型」に比べると自然な日本語になっているけれど、それだけ美女からは遠ざかるような気がしないでもない。だいいち読者がキース・エマーソンみたいな顔を想像したらどうするのだろう。「瓜実(うりざね)顔」というのも思いついたが、これは和風美人にふさわしい形容ではあっても、西洋美女に適用するには無理がありすぎる。そもそも古風すぎて周りの文章から浮いてしまう。

今やっているこの翻訳の締め切りは六月二十七日 (月) である。つまり二週間後に迫っている。そんなときにOvalひとつで悩んでいていいのか、という気はするのだが、やはり美女の形容にはこだわりたい。ここをこだわらずにどうする、という感じすらする。

というふうにいろいろ考えた結果、訳文では「整った顔」とした。「楕円」とは少し離れるけれど、おそらく作者がいいたいのはそういうことだと思うので。