ストルルソンの怪

 ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を読んだ人なら、冒頭近くに「スノッリ・ストルルソン」という「十二世紀アイスランドの有名な著者」の名が出てくるのを覚えておられるかもしれない。ところが岩波の世界人名大事典には、この名が「スノッリ・ストゥルトルソン」として出てくるのだ。
 
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 これを見たときは、てっきり誤植に違いないと思った。だってそうでしょう。 "Sturluson" の綴りで「ストゥルトルソン」と読ませるのは無理がありすぎるし、林達夫が監修していたという平凡社の百科事典にも「ストゥルルソン」として載っているのだから。
 
 しかしある方が大使館に問い合わせたら「『スツットルソン』が正しい」という答が返ってきたそうだ。ここに来て俄然事態は昏迷を深めてきた。調べるたびに違う答が返ってくるのだからかなわない。ふと思いたって『ニューエクスプレス+ アイスランド語』を開いてみたら、こんなことが書いてあった。
 
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 「[ト]の子音が挿入されて "r" の音が脱落する」のだから、大使館の人が言った「スツットルソン」が一番正しいことになる。さすが大使館である。

 それにしても "snjór" と書いて「ストニョウール」と読ませるとは。これは英語の "snow" にあたる語だが、なぜ「ストニョウール」なんて中二病のような発音をするのか。「ストニョウールが降る……あなたは来ない……ストニョウールが降る……いくら呼んでも……白いストニョウールが……ただ降るばかり……」