消えないうちに読もう


 

『都筑道夫の読ホリデイ』にこんな ↑ 一節がある。「やたらに本が消える」とはおだやかでない。

大変失礼な想像で恐縮なのだけれど、大胆な想像をあえてすれば、もしかしたら都筑夫人は、都筑氏の留守中に本が届くと「ああまた本が増えた。片付かないったらありゃしない」と思って、そのままゴミ箱に放るのではあるまいか。そして都筑氏に聞かれると「さあ、どこに置いたか忘れましたねえ」ととぼけるのではあるまいか。奥様は魔女ならぬ奥様はこんまりではあるまいか。まことに同情を禁じえない——もちろん奥方のほうに。

だがおかげでわれわれは都筑道夫から『ナイン・テイラーズ』の読後感を聞きそこねた。それだけは残念だ。都筑は『ポケミス全解説』に収められた『忙しい蜜月旅行』の解説で、「セイヤーズの探偵小説を、文学的探偵小説というのは、まったく見当外れであると思う。教養人の遊び、といっていいもので……」と、やや微妙な評価をしているが、『ナイン・テイラーズ』を読んでもやはり「教養人の遊び」と思うだろうか?

ともあれ家庭内にこんまりがいなくても、整理が悪いといつのまにか本は消えるものだ。『読ホリデイ』のどこかにも「消えないうちに急いで読んだ」というようなフレーズがある。

『恐ろしく奇妙な夜』が面白かったので、続いて同じ夏来氏の編による『英国クリスマス幽霊譚傑作集』を読もうと思った。だが確かに版元からいただいたのに、これがどこにも見つからない。そのうち出てくるだろうけれど「消えないうちに読む」というのはきわめて大切なことだと痛感した。