変な顔の美女

 
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 こういう本のタイトルをどう訳すべきだろう。「変なレディ」「変わったレディ」「奇妙なレディ」「風変わりなレディ」「異様なレディ」……どれも英文和訳としては満点なのかもしれない。だが意味はもう今一つ伝えきれてないのではあるまいか。この "strange" にネガティブな意味を持たせる意図は、おそらくこの本の著者にはないと思うから。だが「変な」や「変わった」と日本語にすると、否応なく悪いニュアンスがにじみ出てしまう。少なくとも称讃している感じはしない。——まあこれは言語の意味体系自体が英語と日本語で違うので、もうどうしようもないことなのかもしれない。

 ここで思い出すのは酒井順子があるエッセイで書いていたシーンである。なんでも歌舞伎を見ていたある外人が「ストレェエエエンジ!」と叫んだのだそうだ。それを聞いて、やはり歌舞伎は外人の目には異様に映るのだなと思った、と酒井氏はそのエッセイで書いていた(記憶違いなら失礼!)。でもたぶんこれは氏の勘違いで、その外人はおそらく、たとえば「ファンタスティック!」と言うのと同じ意味合いで「ストレェエエエンジ!」と叫んだのだと思う。つまり歌舞伎に反発や嫌悪を感じていたのでは必ずしもないと思う。

 もちろん翻訳をしていると "strange" あるいはそれに類する語はしょっちゅう出てくる。今でも覚えているのは『最後の審判の巨匠』のあるシーンだ。そこにはディナという名の美女が出てくるのだが、その顔が(英訳でいうと)”strange oval of her face” と形容されているのである。

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 これを直訳して「彼女の顔の奇妙な楕円」とすると、とても美女とは思えなくなる。ではどうしたか? 興味ある方はどうぞ拙訳をご覧ください、と言いたいところだが、とうの昔に絶版になっている。困ったものである。