ひとつ間違っていたら

 基本英単語シリーズ第二回は "return"。
 
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 ホームズの短篇集のタイトルでも、adverntures (冒険)とか memoirs (回想)などはいかにも適当かつ安直で、ことさら冒険なり回想なりにする必然性は乏しい。だが第三短篇集の return には「これでなくては!」という感じがある。このブログを見ている皆さんなら、理由はわざわざ言わずとも先刻ご承知だろう。書店でこのタイトルを見たときの当時のファンの昂揚感さえこの "Return" の六文字から伝わってくるようだ。

「うわぁホームズが帰ってきた!」
「よかったなあ。俺なんかコナンドイル先生に十通も脅迫状送っちゃったもんね」
「今夜は朝まで飲み明かそうぜ!」

とまあそんな感じだったのではなかろうか。おそらく。

 ところでこの "return" は、理屈っぽく言えば、「いったん他の場所に行っていた者が、そこから戻ってくる」みたいなニュアンスを持つ。列車のチケットの"day return"(一日往復券)などがその好例である。ではホームズの場合その「他の場所」とはどこか?

 そうそうそうなんですよ。この "return" にはデ・ラ・メアの佳作 "The Return" (邦題『死者の誘い』)と同じニュアンスが漂っている。そう思いませんか。

 その意味では『生還』を書いたころのコナン・ドイルがまだ心霊術に凝ってなくて本当によかった! ひとつ間違っていたら第三短篇集は霊界からホームズがワトソンに推理を披露するというシリーズになってたかもしれない。いわば『霧の国』のホームズ版である。