仕事始め!

 誰かが澁澤龍彦を語った文章で、「日本人っていうのは結局モーレツ主義なんだよ!」と自嘲しながら澁澤が旅先でも仕事をしていたという話を読んだ記憶がある。ひょっとしたら贋の記憶かもしれないけれど、かの澁澤にしてそうなのだから、拙豚ごときが一杯機嫌で元日から仕事を始めるというのもまことに無理からぬことであろうと思う。新年最初の仕事はさる雑誌から依頼された(というか、正確には、こちらから「翻訳させてください!」と頼みこんだ)さる短篇である。

 てっきり本邦初訳かと思っていたら、ネットサーフィン(死語か?)しているうちに、業界の大先達による既訳があることを発見してしまった。これには少なからず凹んだ。でも落ち着いて考えてみたら、まあそりゃそうだよね……これほどの傑作が今まで誰の目にもつかなかったわけがない。

 しかしその大先達の既訳が載ったのは30年近く前のマイナー雑誌で、国会図書館にも日本近代文学館にも所蔵がない超稀覯資料である*1。もう一度日の目を見させるのも無駄ではあるまい、と気を取りなおしてふたたび机に向かうのであった。
 

*1:【追記】大宅壮一文庫にはあった! さすがだ。