謎の覆面ゴールキーパー

 
発売するやたちまち怒濤のごとく売れに売れ、わずか一週間で重版が決まったといわれる北原尚彦さんの『初歩からのシャーロック・ホームズ』。勢いに押されて一本を贖ってみた。

なるほどいままで知らなかったことがいろいろ書いてあってたいそう面白い。ほえ~とかふわ~とか変な声を出しながら読んだ。なかでも面白かったところを以下にいくつかご紹介しましょう。ネタバレにならないよう一応配慮しました。

(その一)例の「バリツ」には、「武術」でも「柔術」でもない、ましてや「バーリトゥード」でもない、現在有力な説というのがあるそうだ。おそらくホームズファンには常識なのだろうが、この本を読むまでぜんぜん知らなかった。

(その二)ワトスンがアフガニスタンに従軍したとき負傷した場所は、作品によって肩だったり脚だったりする。ここまではさすがに知っていたが、シャーロキアンのあいだでは「肩説」「脚説」「肩と脚両方説」の三説のほかに、あっと驚く第四の説があるらしい。他人が口をはさむ筋合いのものではないが、後にワトスン夫人となるメアリ・モースタン嬢はこのことを知っていたのだろうか。

(その三)作者コナン・ドイルはホームズ物をいやいや書いていて、終わらせようと思ってモリアーティ教授を登場させたというのは有名な話だが、実はその前、『冒険』が出た段階でホームズは打ち切りにするつもりだったらしい。つまり下手をするとホームズの短篇集は一冊しか出なかったかもしれないのだが、その恐るべき危機を阻止した人とは誰あろう……

(その四)コナン・ドイルといえばクリケットが有名だが、実はその他にも、地元のサッカーチームで一時ゴールキーパーをしていたらしい。でもなぜかそのとき「A. C. スミス」という変名を使っていたそうだ。なぜそんなことをするのだろう? ベーカー街221Bまで行ってホームズに相談したくなるような奇妙な振舞いではなかろうか。「ねえホームズさん、うちの夫ったら人の名前でゴールキーパーやってるんですよ。何か変だと思いません?」(というか、なぜそこまでしてゴールキーパーがやりたかったのだろう?)。このエピソードなどは後の某短篇のヒントになったのかもしれないような気がする(もちろんこのエピソードと短篇執筆の前後関係はよくわからないのだが)。


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