やめられない止まらない

 新紀元社様より『幻想と怪奇』4号をご恵贈にあずかりました。ありがとうございます。

 

 今回のテーマは「吸血鬼の系譜」。この吸血鬼ものというのは不思議に後を引く。一篇読んだらまた別の一篇を読みたくなる。後から後から吸血鬼が出てくるという繰り返しがたまらない。あっというまに一冊読んでしまった。

 これだけ快適に読めるというのは、作品セレクションの良さであると同時に練達の翻訳者陣のおかげでもある。同人出版からは前号の「非聖遺物」(伊東晶子氏訳、初出は『翻訳編吟』)に引き続き、今回はやはり文学フリマで一部にセンセーションを起こした渦巻栗氏が登板。堂に入った技量を見せてくれる。

 前号で平井呈一の絶妙のパスティーシュを披露してくれた井上雅彦氏の今回の作は「われらは伝説」。むろん「アイ・アム・レジェンド」のもじりである。「この雑誌を読む人ならこれはわかってくれるはず」という、いわば作者と読者のあいだの信頼感が、こうした愛好家向け雑誌特有の和やかな雰囲気をつくりだしていると思う。

 いちばん気に入ったのはA.K.トルストイの「吸血鬼の一家——ある外交官の回想録より」。すでに複数の既訳があるそうだが初めて読んだ。元祖『幻想と怪奇』の2号にも入っているらしいのだが、たぶん翻訳が肌にあわず読まなかったのだろう。親爺が吸血鬼になって帰ってきたとわかっていてもやはり一家団欒をしている場面には変なユーモア、変なリアリティがあって、「もう一つの世界」に巧みに読者をひっぱっていく。クライマックスに向けての終盤の盛り上がりもすばらしく、グワーとかゴゴゴゴとかいう効果音が聞こえるほどだ。やはり本場ものは違うなあと感嘆しきり。スラヴの血が騒いでいるのがダイレクトに伝わってくる。

 終わり近くをD.H.ロレンスとコーネル・ウールリッチ両巨頭の作品が飾っている。ロレンスのは吸血鬼もののサブジャンルともいえる毒親・毒保護者もの。このサブジャンルの歴史は古く、おそらく名作「シートンのおばさん」を越えてさらに古く淵源が求められると思う。このロレンスとウールリッチは二人ともいわば別ジャンルの作家なのだけれど、変に気取ったり逃げたりせず、このテーマに真摯に正面から取り組んでいるのが頼もしい。つまり迷信と思って馬鹿にしていないのだ。それは伝統への敬意なのかもしれないし、吸血鬼という存在が欧米あるいはキリスト教圏の人々にとって(下手に冗談にできないほどの!)根深いリアリティを持っている証なのかもしれない。