松山翁の書庫

芸術人類学研究所(AA)多摩美術大学のツイートによれば安藤礼二編『松山俊太郎 蓮の宇宙』は八月刊行予定だそうだ。はたして本当に出るのか、まだまだ予断は許さないけれども、なんとなく今年中には出そうな気配になってきた。まずはめでたいことである。(プシルスキーの『大女神』も出てくれればもっとめでたいんだけど)

松山翁といえば今から三年ほど前緊急入院することになり、縁あって私も留守中の家の整理に駈りだされた。ところが一歩家に入って驚いたのなんの。

玄関からいきなり書棚が林立して蟻の巣みたいになっていて、照明が薄暗いせいもあり、いったい部屋がいくつあるのかさえ最初はわからない。さらに裏庭には巨大な鼠捕りみたいな謎の物体が置いてある。翁の編纂による『澁澤龍彦文学館 最後の箱』の解説には「この「解説」をまとめるのが厭さに書庫の整理に逃れた際」というフレーズがあり、松山邸にはどんな立派な書庫があるのかと想像をたくましくしていた。だが何のことはない、家全体が書庫なのだった(もっとも奥様がご存命中はもう一戸借りてそこを生活空間にしていたという)。

なお驚いたことに、何万冊あるかわからない蔵書が、唐本など本来横にして架蔵すべき一部を除けば、ほとんどすべて縦に書棚におさまっていた。つまり昨日話題にした日夏邸の書庫とは違って、池澤春菜さんの教えが忠実に守られているのだった。さらに驚いたことに、ほとんどすべての本に読まれた形跡がある。付箋が貼られたり傍線が引かれたりしている。あたかも「積読」という文字は松山翁の辞書にはないかのごとくだ。

『げんしけん』で高坂の部屋を訪れた笹原みたいに、「俺に足りないのは覚悟だ!」とうなりながら松山家を後にしたことであった。

(『蓮の宇宙』のレヴューはこちら