ここにも慈悲はない

 漏れ伝わる噂によると今度のサキ新訳は和爾桃子さんが手がけるだそうだ。これは非常に楽しみだ。というのは和爾さんのジョン・コリア訳に堪能したことがあるからだ。

 たとえば「特別配達」。この短篇には拙豚の知っている限りでは、和爾訳の他に二種の訳がある。どちらも男性によるものだが、男性がこれを訳すと、ついつい主人公に同情してしまうようなのだ。特にそのうち一篇はタイトルを「ある恋の物語」と改題としていて、実にもう、この題名の訳からして、ヘタレの極致といえよう。

 だが和爾訳には一片の慈悲もない! カミソリを使ったみたいにスパーッと切って捨てている。「なるほどコリアの残酷さというのはこういうことなんだな」と目が覚めるような思いで読んだのを覚えている。

 こいつは男性には絶対できない訳しぶりのような気がする。しかしとあるパーティーでご本人にお目にかかったら、意外にも気さくで優しそうな方だった。