ひたすら懐かしい

今日もダゴベルトを一篇読んだ。鍵穴が600個ある小箱が出てきた。エッ!と思って目をこすってよく見てもやはり600と書いてある。「白髪三千丈」式の慣用句じゃないかと疑い慣用句辞典を見たけれど、そうでもないようだ。文字通り600個の鍵穴があるらしい。想像するだに肌が粟立つような、気持ちの悪い箱ではないか……今晩、夢に出てきたらどうしよう。さぞうなされるに違いない。

この短篇にはいわゆる本格ミステリらしいところはほとんどゼロだし、依頼人も変人としか思えないし(なにしろ600の鍵穴がある箱を注文して作らせた人なのだ)、真面目に書いたのだろうかと疑われるほどの大怪作。

で、口直しというわけでもないけれど、『少年少女昭和ミステリ美術館』をパラパラ。学級文庫や図書室でおなじみだった懐かしい表紙絵が次々と登場する。

この本はタイトルにあるように「美術館」を狙ってつくられた本であろうけれど、書誌としても役立つと思う。ちょうどミルコ・シェーデルのドイツ推理小説書誌が、書誌でありながらも、偶数ページを占めるカラー書影によって美術館にもなっているのと好対照だ。もちろん本格的な書誌としてはデータ不足は否めないけれど、このくらいでもまとまっていると非常にありがたい。

この本をめくっていてわれながら呆れたのだけど、子供向けリライトで読んだまま、それで読んだつもりになって本物を読んでない作品が予想外に多い。たとえばあかね書房の「少年少女世界推理文学全集」でいえば、『ABC殺人事件』『黄色い部屋の謎』『赤い館の秘密』『マギル卿最後の旅』『マルタの鷹』『ケンネル殺人事件』あたりは、このあかね書房版でしか読んでない。いや困ったもんだね。本格ミステリ冬の時代はあったかなかったかなどと言ってる場合じゃない。

あと嬉しかったのは『三人のおまわりさん』の書影が載っていたこと(p.125)。これはレオ・ブルース『三人の名探偵のための事件』のリライト、ではもちろんなくて、デュボワという児童文学者の隠れた名作。この人の『21の気球』という作品は(ミステリではないけれど)児童文学ベスト10、とは言わないまでもベスト100には入ると思います。