幻影文藝雑誌「片影」

「片影」を辞書で引くと「建物の影」とあります。といっても、あああロブ=グリエかあと納得してしまうのは即断というもので、まずは目次を見てみましょう。


・「水晶散歩」(長編小説、連載)  kao(堀内薫)
・「水晶散歩」世界の紹介 小野塚力
・「反現実の影のもとで―中井英夫をめぐる随想」  小野塚力
・「ラヴクラフトにおけるダンセイニ受容(1)「北極星」における想像力 未谷おと

堂々たる布陣ではありませんか。

なかでも、未谷おとさんの論考が、『文学における超自然の恐怖』と相前後して発表されたのは奇しき因縁と言いたくなります。未谷さんはまだ若い方ですが、知る人ぞ知る「PEGANA LOST」の発行人にして、ダンセイニ研究の鬼の人です。ダンセイニの未発表原稿を海外のオークションで荒俣宏と競り合ったとか、色々凄いエピソードを持っています。(ちなみにその未発表原稿の翻訳はPEGANA LOSTに掲載されています)

未谷さんの今回の文章はこれから続くであろう一連の論考のイントロダクションとでもいうべきもので、ダンセイニ風の小品「ポラリス(北極星)」の作品構造が分析されています。『文学における超自然の恐怖』の訳者解説にもあるように、ラヴクラフトが「北極星」を執筆したとき、彼にとってダンセイニは未知の作家でありました。だから、「北極星」はラヴクラフトのダンセイニ受容を考えるうえでその前史と位置づけることもできましょう。

『文学における超自然の恐怖』所収の「ダンセイニ郷とその著作」と合わせて読めば啓発されるところ大と思います。「片影」は限定100部ですが、幸いにして古書肆マルドロールにはまだ数冊残っているようです。