後をひく山本文緒

 
実はまだ山本文緒を読み続けている。この人は妙に後をひく。短編集だと「プラナリア」「シュガーレス・ラヴ」「みんないってしまう」「絶対泣かない」を読んだ。

このなかでダントツに面白かったのが「みんないってしまう」、いちばん苦手だったのが「プラナリア」。

なぜ「みんないってしまう」が面白いのかというと簡単明瞭で、ここに入っている短編には「オチ」があるからだ。それもわりと意外なところに落ちる。

結末の意外性に作者の気合が入っていて、かつ良い意味で閉じている(=回収されない伏線がない)ので、ミステリファンが読んでも心地いいのである。これは作者がクリスティの愛読者で「何度でも読み返す」(エッセイ集「かなえられない恋のために」にそう書いてあった)ことと無関係ではないと思う。

中でも素晴らしいのは「ハムスター」で、この短編のオチは最後の一行に集約されるのだが、なんとスーパーナチュラルで落ちている。それもトマス・オーウェンみたいな。

そしてこのオチで隠されていたテーマが前景化し、一見脇役と見えた登場人物の一人が、実は主役であったかもしれないという可能性が示唆されている。つまりある種のミステリみたいに、物語の構図が最後の一行でがらり一転するのだ。この技巧の冴えは相当なものだと思った。早川の「異色作家短編集」とかに入っていてもおかしくないね!