眼鏡文人の友情

眼鏡文人と言えば福永武彦、ということで物のついでにマチネ・ポエティックの同志中村真一郎の回想記「愛と美と文学」より引用。中村が旧制一校を受験するときのエピソードです。

彼(福永武彦)は私の受験勉強の時間割の作製を手伝い、金のない私に参考書を持参し、しばしば上野の図書館に本郷の寮から私を訪ねて来て勉強の進行具合をたずねた。そしていよいよ入試が近付くと、特に国史の試験は龍粛教授の歴史観が、一般の中学の国史教育とは大いに懸け離れているから、教授の学説に通じなければいけないといって、一年分の彼のノートを持参し、そのなかで特別に教授の得意とする説に関する部分、四ヵ所に山をかけて、そこを丸暗記するようにすすめた。[中略]
 
この福永の友情は生涯続き、作家となって私が書き下ろし長篇を書くたびに、校正刷りを私から奪いとって精細に検討し、語句から句読点に至るまで、リストを作って再考を強制し、そのために係の編集者を激怒させるというような滑稽なことも起った。

 
……これって友情なのか? 本当に友情???