元祖バブルクンド

 ダンセイニの「バブルクンドの陥落」は、その凝った構成と文章によって一読忘れがたい作品だ。伝説の市バブルクンドを一目見んものと、「私」は友とともに沙漠を南へ向う。途上で行き交った、南から来た第一の旅客は、「私」たちにバブルクンドとその王ネヘモスの壮麗さを語る。やはり南から来た第二の旅客も同様にネヘモス王の楽人とその奇怪な信仰を語る。しかし第三の旅客は「私」たちの後ろから来て、「私」たちにその不思議な使命について語るのだった……

 足穂は自作「黄漠奇聞」について、この「バブルクンドの陥落」からは人名とか地名を借用しただけで、内容はまったく別物と言っている。それはまったくその通りなのだが、このダンセイニ作品のような傑作を読んでその影響をまったく受けないというのも難しい話ではなかろうかという気がする。まず他の足穂作品とは異質な美文調の文体がある。足穂自身は、石野作品を元にしたからだと作品自解で言っているが、別に文体まで石野に義理立てする必要はない。やはり根本にはダンセイニの呪縛があったのでないか。それから、王の罪禍のため永遠の都バブルクンドが滅びるという筋立て。それから、旅客である作中の「私」がバブルクンド無きあとの砂漠のみを見るという物語の大枠……

 話はまったく変わるが「ヴァテック」と「黄漠奇聞」と類似も気になるところだ。偶然の一致なのだろうか。