砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない


滅・こぉるさんの気合の入った感想に興味をひかれて読んだ。

・・・うわーやられた!! かわいい女の子のイラストにだまされた〜

「『砂糖菓子〜』そのものはミステリではない」と滅さんは書いている。しかし、一つの死の真相が最後に解明され、その解明に伴う戦慄が作品のテーマに分かちがたく結びついているこのような傑作、これをミステリと呼んで何が悪いのだろう。

例えばロス・マクドナルド『さむけ』のラストの衝撃とこの作品の読後感はそれほど遠くないのでは(もっとも『さむけ』よりこの『砂糖菓子〜』の方がミステリとしては上と思うが)。作者自身は「カーに影響を受けた」と語っているが、根はロスマクの人なような気がする。もうひとつ、ロスマクとの構成上の類似をあげると、『さむけ』が「ハードボイルドと思わせておいて実は〜」という驚愕を狙っているのと同じく、これも「ラノベと思わせておいて実は〜」という風に、「ジャンル小説の約束ごとをひっくり返す」という手法が、作者の訴えたいテーマを強力に打ち出すため効果的に使われている*1

プロットにはカーの某作品が下敷きにされている。この再演は、かってのカー愛読者にとっては、とてもやるせない感銘をもってラストシーン(兄の変貌や主人公の進学)と響きあうだろう。歴史は繰り返す。一度目は喜劇として。二度目は悲劇として。

滅さんが指摘している「様式への意志」も素晴らしい。手がかりの提出のしかたには、確かにカーの例の短編の影響が見られると思う。ネタを割らない範囲で一つだけ言及すると、たとえば第一章の3行目でいきなり一つの手がかりが提出されている。このメッセージをちゃんと受け取っていれば中盤のミスディレクションにひっかからなくてすむ。そして、その意味が明かされるのは終章(194ページの最初の4行)になってからだ。(おお、これは『ケルベロス第五の首』と同じ手ではないか!)
 

*1:「約束ごと」と言うのは、この場合、ラノベ世界では人魚が実在してもおかしくないとか、撲殺されてバラバラ死体になっても「ぴぴるぴるぴる〜」と生き返るとかそういうことです。