「小説推理」キタワァ*・゜゜・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゜・*:.。. .。.:*・゜゜・* !!

宇野亜喜良先生は亜利夫の〇〇〇〇が立っているとこまでちゃんと挿絵に描いていらっしゃるよ。蒼司のはなんか微妙な描きかただけど、やっぱり立ってるんじゃないかな。

いやそれはともかく、このアドニス版「虚無」のミステリーとしての構想だが、今回発表された序章部分だけを見ても、現在われわれが読むことができる、最終的に『虚無への供物』として完成されたものとは相当に異なっていたことがうかがえる。

まずアドニス版の序章5「青の掟」で、氷沼家直系の男子に代々伝えられる大ダイヤモンド「青き虚無」というのが登場する。もちろんこれは、爺やが唱える例の聖不動経「大悲の徳の故に青黒の形を現じ/大定の徳の故に金剛石に坐し…」に則ったストーリー展開をさせるための小道具であろう。おそらくこのアドニス版虚無時点での構想は、より見立て殺人色が強いものだったのではないだろうか。

しかし時価二千万円の大ダイヤ、おまけにその名が「青き虚無」なんてものが出てくると、作品世界はいやでも乱歩調というか、大時代なものになってしまう。最終稿でダイヤの設定が消えたのもむべなるかな。

それからトリック面での最終稿との大きな違いは、このアドニス版では問題の九段の名刺が皓吉の手から直接亜利夫に手渡されていることだ。たぶん犯人の設定は、このアドニス版でも変わっていないのだろうから、これによって犯人のアリバイはますます強固なものに、そして犯罪の不可能性はますます強くなっている。この名刺の手渡しという縛りがあって、どうして犯人に犯行が行えたのか? すくなくともわたしには謎である。登場人物の一人が声色が巧みだというデータは、このアドニス版でも提出されているのだが、肝心の名刺があれでは困るではないか。それに、亜利夫は氷沼邸で偶然皓吉に会ったような書きかたがされているから、犯人と皓吉が事前に示し合わせることも不自然なような気がする。まるであの伝説的な「鎌倉行きの列車で読んだカーの欠陥本」を目の当たりにしたかのようなもどかしい気持ちになってしまう。本当にどうやって殺したのだろう?

それに、実は今回掲載されなかった第一章ではもっと悩ましい出来事が起こっているのだ。これらの謎に作者は合理的な解答を用意していたのだろうか。それはかなり疑わしい気がするのだが、仮に用意されていたとすると、どういう風にあれらの謎は解かれることになっていたのだろう? 作者の死によってそれは永遠の謎となってしまった。この第一の事件だけに限れば、犯人のアリバイはちょっと鮎川哲也的である。ああ、もし鮎川先生がご存命であったら、これをどう解決されるであろうか……