『The End』/『耳らっぱ』 ISBN:4575234885/ISBN:4875023731 …(12/18の続き)


聖杯とは人も知るように、ゴルゴダの丘でイエスが処刑されたとき、槍で突かれたその脇腹から吹き出る血――「赤」の顕現――を受けたとされる杯である。聖杯はその後ブリテン島に渡り、アーサー王の円卓の騎士たちの探索の目標となる。しかしその探索の成功は、――聖杯を持つものは、それとともに天に登り、キリストの元にその聖杯をもたらさねばならぬという使命のゆえに――、円卓の消滅、ひいては王国の滅亡をもたらすものであった。
『The End』も同じく、その五里霧中の発端と静謐な終章から察せられるかぎりでは、何かが探索され、何かが見出され、そして何かが滅びる物語である。それは間違いないのだけれど、ではその「何か」とは何で、なぜそれが聖杯なのであるか? それを見るためにまずレオノーラ・キャリントンの『耳らっぱ』を読んでみよう。
『耳らっぱ』には現在二種類の邦訳がある。この物語は英語版より先にフランス語版が出たのだけれど、そのフランス語版を底本としたのが月刊ペン社版の『耳らっぱ』である。一方最近出た工作舎版の『耳ラッパ』は英語版から訳されている。そして『耳ラッパ』でもある種の「終わり」が語られている。

太陽がふたたび昇るまでにどれほどの時間が経過したのか誰にも分かりませんでした。また太陽は昇り始め、地平線近くで淡い白い光が雪と氷で姿を変えた世界を照らしました。
[…]
昼と夜の配分は均等ではありませんでした。太陽は真上まで昇らず、正午には沈みました。地球は新しい秩序でのバランスを求めて、軌道をびっこをひいて回っているようでした。(工作舎版pp.192-193)

(たぶん続きます)