とほい空でぴすとるが鳴る


 

また佐野洋を読みました。例によって「佐野洋のどこがそんなにいいんだ」というようなクレームは却下です。

さて今回は『十年物語』という短篇集。1997年に文庫オリジナルで出た本です。ですから晩年の作といっていいでしょう。「とほい空でぴすとるが鳴る」というのはこの前読んだ高原英理さんの『詩歌探偵フラヌール』でも引用されていた朔太郎の一節ですが、それと同じように、『十年物語』でも遠くで事件が起こります。

つまりこの本に収められたたいていの短篇では主人公は探偵でも犯人でも被害者でもなく、多くの場合は事件に直接にも間接にもかかわりを持っていません。はたして事件と主人公とはどういうつながりを持っているのか? という謎が主に扱われます。

さらにそこに「十年」という縛りを入れています。つまり十年前に起きた事件の波紋を、しゃれたコントに仕立てているのですよ。やや大げさかもしれませんが晩年の新境地といっていいでしょう。これだから佐野洋を読むのはやめられません。