『ホフマン小説集成』2

この『ホフマン小説集成』は、よほど古典音楽にうるさい、いや詳しい人が目を通したらしく、音楽関係の校訂が行き届いているようだ。そのせいかどうか、読んでいるとあちこちのページから妙なる音が聞えてくる気がする。なるほどホフマンは文筆の人であると同時に音楽の人でもあったのだなあと感じ入った。

ホフマンの本質は幻想(あるいは幻視)小説家なのか、それとも音楽小説家なのか、すくなくともこの『ホフマン小説集成(上)』を読むかぎりでは判別がつきがたい。後者に軍配を上げる人だって少なからずいるだろう。

人も知るようにホフマンは作曲家でもあり、コンサートマスターを務めていたこともあった。むかし神保町の文庫川村の近くにハンバーグ専門店の入っていたビルがあって、そこに趣味のよいクラシック専門レコード店があった。八十年代末の、まだCDが普及していない頃の話である。そこにホフマンの曲を吹き込んだレコードが何枚かあったのを覚えている。でも当時はさほど興味がなく、少なくとも大枚をはたいて買うほどの興味はなく、「あああるなあ」と思っただけでスルーしてしまった。『ホフマン小説集成』を読んでいるうちにそのことを卒然と思い出し、今更ながら猛烈に後悔した。

本でもレコードでもそうだけれど、自分の家にあるものの在りかはよく把握していないくせに、買い逃して後悔したものはどの店のどこらへんにあったかを覚えている。なぜだろう。
 
【5/26付記】店の名を思い出した。たしか「パパゲーノ」だった。