積読本のない家

 書棚の整理をしていたら以前買った『ヨコジュンの読書ノート』(書肆盛林堂, 2019) が出てきた。ヨコジュンこと横田順彌氏が高校三年から大学生時代にかけて書いた読書記録である。
 
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 本文も興味深いが巻末の北原尚彦さんによる解説にはさらに驚いた。冒頭いきなりこんな対話がある。
 

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「うちにある本はもう、みんな読んだものばっかりなんだ」

 
 横田家には積読本がなかったとは。恐ろしいほどの蔵書量を誇っていたはずなのに……。森由岐子の『魔怪わらべの唄』という怪奇漫画は「この家にはトイレがない!」というセリフで有名だけれど、「この家には積読本がない!」というのはそれをはるかに上まわる衝撃といえよう。

 横田氏については『怪奇骨董翻訳箱』のあとがきでささやかな追悼の辞を述べたことがある。しかしこのエピソードによって氏への敬意はいや増しに増した。「うちにある本はもう、みんな読んだものばっかりなんだ」——男たるもの、一生に一度はこういうセリフを吐いてみたいものではないか。