平井訳アーサー・マッケン傑作選の創元推理文庫化にわきかえるホラー界であるが、それにちなんで平井ネタをもう一つ。
山川方夫が死の直前までEQMMに連載していた「トコという男」は、一見軽妙な談話風エッセイでありながら、搦め手から攻めた推理小説論であり、しかも最後まで読むと一種の恐怖小説にもなっているという、いかにも山川方夫らしい凝った作品(とあえて言いたい)である。現在は創元推理文庫の『親しい友人たち』で読めると思う(現物が手元にないので未確認)。
これを久しぶりにパラパラとめくっていてアッと驚く一行に出会った。この一行は以前はなぜか見過ごしていた。
「恐怖文学セミナーの『ザ・ホラー』も購読している」……えっ今なんとおっしゃいましたか?
今さら言うのもあれだが、"THE HORROR" といえば、平井呈一監修のもとで紀田順一郎・桂千穂・大伴昌司など錚々たる顔ぶれがそろったあの伝説の同人誌ではないか。この同人誌はごく熱狂的な愛好家だけのものかと思っていたら、わりと広範囲に読まれていたのだなと認識を新たにした次第。
いやもしかしたら山川方夫自身が熱狂的な愛好家だったのか。いずれにせよ、当時は全然売れずにゾッキ本が山と積まれていたという噂の「世界恐怖小説全集」を全巻買って愛読しているというのはタダモノではない。