昨日の日記で「いつなんどき変な圧力がかかって出版差し止めとか回収とかになるかもわからないから」と書いたが、これはすなわち、「あとで後悔しないよう今のうちに買っておく」という意味である。買って後悔するか、買わずに後悔するか、これは千古不易の悩ましい問題だ。
しかし「買って後悔」の場合は、その後悔はしょせん費やした価格だけの問題にすぎない。ところが「買わずに後悔」は、後悔の度合いが定量的に測れないだけに、いつまでも後をひく。とくに古本の場合だと一期一会という場合も多々あるのでなおさらだ。買わずに後悔した本はいまだにどの店のどの棚のどこらへんの位置にあったかまで覚えている。よほど執念深い性格なのかもしれない。
しかし亀の甲より年の功、年歯を重ねるにつれ、「買わずにいて、しかも後悔しない」方法をじょじょに編み出すにいたった。それを一言で言えば「買わないと決めたとき、その理由を明確に心に刻み込む」ということだ。
といっても、お金がないとか、買っても置くところがないとか、重いので持ち帰るのが面倒とか、買ってもどうせ読みやしないとか、そういう普遍的な理由はあとで必ず後悔のもとになるから、絶対に禁物である。「買わない理由」はその本特有のものでなくてはならない。たとえば表紙の角がつぶれているとか、ページが折れているとか、三文判の蔵書印が捺してあるとか、店主がやたらにエラそうであるとか。逆に言えば、どうにもこうにもケチがつけられないような本はエイやっと買うということでもある。この秘訣を編み出して以来、よほど心の安寧がえられるようになった。