ルリユール叢書の二冊

中井英夫や椿實の単行本未収録作品集をはじめとして、数々の魅惑的な書物をわれわれに送り届けてきた幻戯書房が、ルリユール叢書なる新しい叢書をはじめるようです。刊行ラインナップの書目にはいずれもわくわくさせられますが、特に期待される二冊があります。

一冊目はパリヌルスことシリル・コナリーの『不安な墓場』(The Unquiet Grave)。

 

シリル・コナリーはかつて故・篠田一士がさかんに称揚していて、わたしなどもそれで名を知った口です。でも最近はとんと聞かなくなりました。文学趣味の精髄ともいえる彼の本が、こうして忘れられず翻訳が出るということはまったくありがたいことです。篠田一士が褒めたことでもわかるように彼は文学の賞味家であって、この『不安な墓場』には読書と人生を巡る思索が芥川龍之介風の短文スタイルでくりひろげられています。

もう一冊はヴァレリー・ラルボー『聖ヒエロニュムスの加護のもとに』(Sous l'invocation de Saint Jérôme)。(下の画像はドイツ語版で、原本から一篇だけを抄出したものです。)
 

文学の賞味家といえばラルボーも負けていません。あの絶妙なエッセイ「罰せられざる悪徳・読書」に舌鼓を打った方もたくさんおられると思います。本書はそのラルボーの翻訳論を収めたものです(聖ヒエロニムスは翻訳家の守護聖人)。

むかし渡辺一考さんからお聞きしたところによれば、岩崎力氏のもとには「読書、この罰せられざる悪徳 何々の領分」シリーズ三冊の訳稿が日の目を見ないまま眠っているのだそうです。なんとか出版できないものでしょうか。