時局大迎合

関口存男といえば、いつのまにか三修社から新刊が出ていました。今年一月の刊行です。

正確に言えば新刊ではなく増補復刊で、昭和8年(1933)に初版が出て、昭和33年(1958)に再刊された『和文独訳漫談集』に「雨傘論」他三篇を増補したものです。とはいえ版面そのままの復刻ではなく、ちゃんと活字を組み直してあります。

これがどんな本かということは、はしがきに書かれてあります。

「勿論こんなものを読んだからと言って、ドイツ語の実力が発達したりなんぞするわけのものでは」ない本であると、著者自らが言っております。

でもまあ、実力の発達はしないにしても、すくなくとも大いに啓発はされます。内容をちょっと紹介すると

さすがに満州事変とか国際連盟脱退などが起きたころの本だけあって、和文独訳の課題も勇壮です。今見ると完全にアナクロ……じゃなくて、一周回ってアクチュアルになっているのかな? そこらへんはよくわかりません。

この課題文 ↓ は昭和10年(1935)の朝日新聞社説から。この時代は朝日社説もナチスの肩を持っていたんですね(肩を持つのとはちょっとニュアンスが違うかもしれませんが……)

ともあれ今の時期にあえてこういうアナクロかアクチュアルかわからない本を出す三修社は注目に値すると思います。これ一冊にとどまらず、どしどし「関口存男セレクション」の続刊を刊行してほしいものです。


話は飛びますが、むかしむかし、東横線沿線のとある古本屋の店先に、関口存男主宰の「月刊講座 ドイツ語」が山積みになっていたことがありました。なにぶん表紙がこんな ↓ 感じで時局大迎合しているので、まるで汚物かなんかのような扱いで、べらぼうな安値がついていたものです。


(左上から昭和18年3月号、昭和17年11月号、昭和13年10月号、同11月号、同6月号)

「うわあやったあ!」と思って、その一山を全部かかえて帳場に持っていくと、よほど顔がホクホクしていたのでしょうか、「変な人が来た~」みたいな感じで応対されたことを覚えています。