まだある、まだある

 昨日と今日は古書会館で洋書まつりがあった。いつぞやの日記で記した、加齢とともに本買いが加速する人たちが一堂に集まってわれがちに段ボール箱に何箱も、という感じで本を買っていっている。恐ろしい。恐ろしすぎる眺めではないか。昨日六十冊近く買ったある人は、宅配便を執拗に断り、全部自分で持って帰ったそうだ。さもありなん。収穫品は全部自分の手でタクシーに詰め込んで帰るのは植草甚一以来の伝統ではなかったか。

 ところで昨日の収穫の一冊にはこんなサインがあった。
 

 

 まだあったのか! と驚いた。あれからもう三十年以上経っているのに……。もしかしたら一度新たな人の手にわたって、それからその人が手放したのかもしれない。古書というものはそんな風に還流していくものだ。だいいちこの拙豚にしても仮の所有者にしかすぎない。しかるべき時が来ればまた市場に放つつもりでいる。

 そしておそらく、こうした本が還流しているかぎり、洋古書店はいつまでもhauntedの状態にあって、ある種の人々を惹きつけ続けることだろう。


 ところで話は急激に変わるが、噂によればある方がボルヘスの"There are more things"の新訳を企画されているのだそうだ。この際だから、ぜひ訳題は「まだある、まだある」でお願いしたいと思うが、いかがなものだろう。もし拙豚が新訳するなら、もうそれこそ万難を排して「まだある、まだある」にするのだけれど……。