別れる理由

9/20の日記でヘレン・マクロイの「あなたは誰?」と竹本健治の作品を関連づけた。というのも、このところ竹本を集中的に読んでいるから。そのつながりでビュトールの「時間割」と小島信夫の「別れる理由」にもチラリと目を通した。

この二作はどちらも「ウロボロスの偽書」と部分的に似た構造を持っている。「時間割」はイギリスの商社に赴任してきたフランス人の青年の話。彼は着任後何か月かたってから、赴任以来の経験を思い起こして日記につけはじめる。ところが記憶のなかで過去は変貌してしまっていて、その過去の影響上にある現在との対比のなかで迷宮的世界をつくりあげる。

「別れる理由」はある文芸雑誌に延々十年以上にわたって連載された伝説的な大長編。読破した人はほとんどいないといわれる。いまチャレンジしているところだが、やはり付き合いきれないものを感じる。

そうかといって捨てきれもしないのは、先に述べたように、「ウロボロスの偽書」といくつかの共通点を持っているからだ。実在の人物が多数登場する点(柄谷行人、藤枝静男、大庭みな子……)、構造的に「終わらない」小説を目指している点、「雑誌連載」という特性を小説の構造に生かしている点、作者が頭のなかで作った架空の登場人物と作者が同一平面にいる点、などなど。

だが作者の頭が整理されていないだけ、「時間割」や「ウロボロスの偽書」よりもはるかに難解な仕上がりになっている。そもそも分量が「ウロボロスの偽書」の何倍もある。しかもタイムパラドックスを無視してタイムマシンものを書いてるみたいな恐怖の大味作品である。さていったいどうなることか。奇絶! 怪絶! また壮絶!