パノプティコンの青い空


快著『ドバラダ門』に書かれてあるように、ジャズピアニスト山下洋輔の祖父は建築家だった。奈良にある、ボスフォラス以東唯一(かもしれない)ロマネスク様式の少年刑務所も、その山下啓次郎氏の設計によるものだ。イギリスのマンチェスター刑務所とまったく一緒の造りだという。明治四十一年にできた建物がいまだにそのまま使われていて、中には冷房も暖房もない。
そしてヴィクトリア朝時代の監獄様式にのっとり、放射状に配列された監房の中心には中央監視塔がある。ここに立てばどの監房も一望のもとに見渡せる。早い話がパノプティコンだ。

この刑務所では、他のものとなじめない受刑者のために、「社会性涵養プログラム」というものが実施されている。挨拶のしかたなどを教えるソーシャル・スキル・トレーニングなどとともに、いわゆる情操教育があり、寮美千子氏が詩と童話の講師をされている。そこで作られた作品を集めたが本書『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』である。

とにかく驚くのは、どの詩にも表れている素直さで、「いったいどんな罪をおかしたのか」「なんでこんな子が犯罪を犯せるのだろう」のような疑問が百出することはうけあい。詩のあいだに鏤められている多数の刑務所内外の写真とあいまって、まことに珍重すべき本になっている。

なんだかちょっと入ってみたくなった。でも少年刑務所というくらいだから、もはや年齢的に無理だろう。