P氏も南山壽

引き続きビオイ=カサーレスの日記を読んでいる。今日は1962年2月26日の記述。人の日記を紹介していると毎日の更新が実に楽でいい。

ボルヘスが合衆国から電話してきた。「……ロサンゼルスでアントニイ・バウチャーとテクニックの話をした。彼はとても生き生きとして、とても礼儀正しく、とても俗で、密室パズルの機械的解決にとても凝っている。そしてペイロウとブストス・ドメックの作品にやたら詳しいんだ」
 
僕はまったく読む気になれない推理小説のタイトルを提案してみた。『その男は合鍵で部屋に入った』。

バウチャーがH.H.ホームズ名義で"Nine times Nine"(邦訳題名「密室の魔術師」*1)を発表したのが1940年。戦後まもない西荻窪のアパートで、中井英夫が英語の勉強のために読んだというこの本が出てから20年以上過ぎているのに、まだアルゼンチンからの客と機械的トリックの話をしているとは……

たぶん(´・ω・`)みたいな顔をして聞いていたであろうビオイ=カサーレスの切り返しがグッジョブ。『その男は合鍵で部屋に入った』なんて、なんだか読んでみたくなるタイトルではないか。

*1:ひもを引っ張って密室をつくる話、とここまで言っても全然ネタバレになっていないところがこの作のすごさだ!