われら死者とともに歩む


開巻いきなり「来訪者」で快調(怪調?)に幕を開ける昭和編。この怪夢録と「幽鬼の街」との二大女難小説に挟まれるようにして豊島与志雄久生十蘭の可憐な短篇が並ぶ。
恥ずかしながら伊藤整はこれまで一字も読んだことはなくて、左川ちかの年譜に出てくる嫌な奴という程度の認識だったのだけれど、凄いですねこの「幽鬼の街」は! なんと恐ろし〜モテモテ地獄じゃ〜〜チャカポコチャカポコ。

しかし掉尾を飾る原民喜カップリング「夢と人生」「鎮魂歌」に至って、目に見えぬ転轍手がレバーを操作したように、本書全体のテーマが露わになるのは、総毛の立つような体験だった。おお、われら死者とともに歩む! 

拙豚くらいの年になると、「先立たれる」という体験を何度もしているわけで、生きている人と死んだ人の、どちらと共に生きているのかだんだんとよく分からなくなってくるのだけれども、それは原爆小説とジェントル・ゴースト・ストーリーと女難小説との間を還流する澪(みお)でもあった。おお、われら死者とともに歩む!