豚ミステリの華麗な世界




縁あってミステリマガジンで年に二度ほど、ドイツの新刊ミステリ紹介を担当しています。後ろのほうのページの、新刊情報[世界編]という欄で、分量は一回につき三枚くらい。紹介する本は当方に一任されているので、すごく楽しい仕事です。たぶん読んでいる人はほとんどいないでしょうけれど。

大量生産、大量消費というミステリの享受のされかたはドイツも日本と変わらず、新刊紹介のサイトを見ると、今年の8月にはドイツ国内物・翻訳物合わせて59冊の新刊ミステリが出ています。(もっともこれには既刊ハートカバーをペーパーバック化したものも新刊扱いとしてカウントされているので、実質的な新作はこれほどではありません) 
洋の東西を問わず、ミステリというのは本来中毒性を持った読み物なので、エドマンド・ウィルスンが昔嘆いたように、一度魅入られた人はチェーンスモーキングならぬチェーンリーディングを続けざるを得ないのでしょう。

ミステリマガジンのドイツミステリ紹介は、拙豚の他に大先輩の平井吉夫氏が担当されてますので、傾向が重ならぬよう、なるだけ変化球を投げるべく心がけています。さいわいドイツでは日本以上に変なミステリがいろいろ出ているので、いまのところ紹介する本には困りません。(もっともこれらを変と思うのは日本人だけで、ドイツではたぶん当たり前なのでしょうけれど。)
ということで前々回(2010年12月号)はホメオパシー探偵、前回(2011年6月号)はラヴェルの歌曲にのっとった連続殺人を紹介させていただきました。そして今月末発売予定の11月号で取り上げるのは、生後二年のめす豚が恋人の野豚(イノシシ)とキャッキャッウフフしながら連続殺人の謎を解く、豚探偵ものであります。

豚探偵といえば、日本では過去に矢崎存美さんの「ぶたぶた」シリーズがありました。このシリーズは人気を博しましたが、残念ながら「豚ミス」というジャンルの定着までにはいたりませんでした。
しかしドイツでは豚ミステリはしっかり根付いていて、ここ二、三年ばかり(2009年〜2011年)に出たものだけでも下のようにけっこうあります。もちろん全部大人向けの作品で、ジュブナイルではありません。つくづく不思議な国だと思わざるをえません。

Die Sau ist tot: Ein Muensterland-Krimi  Die Sau und der Moerder: Ein Muensterlandkrimi  Mein Schwein pfeift: Ein Muensterland-Krimi
左:豚枕で寝る男は豚以上に太っていた。でも残念ながら探偵するのは人間。
中:三々五々散歩する豚。シリーズ第二作。
右:高級車(?)を乗り回す豚。シリーズ第三作。

Saubande: Ein Schweinekrimi  Rampensau: Ein Schweinekrimi
左:こんどミステリマガジンで紹介する本。めす豚探偵キムの大冒険。
右:シリーズ第二作

Tartufo  Tartufo mortale: Leonardos neuer Fall
左:グルメ豚探偵レオナルド。
右:グルメ豚探偵シリーズ第二作。