レルネット=ホレーニアのことなど

白羊宮の火星 (福武文庫)

白羊宮の火星 (福武文庫)


レルネット=ホレーニアの未訳幻想ミステリ三作(『両シシリア連隊』『赤い夢』『帽子の男』)のレビューをやっと書き上げ、ROM編集長に送信。次の号か次の次の号に掲載予定。
この作家はまだその面白さが十分に知られておらず、今回の駄文が一石、というか一砂粒でも投じることになればと思う。すでに長篇では『白羊宮の火星』というのが翻訳されている(エディション・アルシーヴ、のち福武文庫)が、これがすこぶる妙な作品で、拙豚など大昔に一読したときにはおおいにとまどった。
舞台はヒトラーによるオーストリア併合後の1939年。風雲まさに急をつげる、のはずなのだが、なぜか騎兵大尉が男爵夫人を追いかけまわしていたりする。とっくの昔、1918年に帝国は解体したはずなのに、それから20年以上たっても、なんかこう、帝国気分が抜けていないような人がいろいろ登場するのだ。あえて日本でいえば久生十蘭の世界にちょっとばかり通じるものがあるかもしれない。

それはさておき、今回の三作のうちで一番ミステリ的に問題作なのはたぶん『両シシリア連隊』で、○○○○とか○○○○○もそこのけの○○○○トリックには頭がくらくらするのを禁じえない。
それから○○○○○○○が○○○いたり、○○○○○○○○○が○○○いたりというわけのわからなさは、メモを取りながらでないととても理解できない。ミステリ後進国(たぶん)であるオーストリアでこんなに凝った作品があらわれるというのは、天下の奇観だと思う。
さらにアレなのは、犯人の人が「オレは完全犯罪をやってやる!」みたいな悲壮な決意のもとに○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○なところで、実に天衣無縫というか、○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○く。作者の人は、○○○○○○○○○○○とか○○○○○○というものによほど深い疑念を持っているのだと思う。

そういえば宇野邦一氏の何かの本に、この『両シシリア連隊』からの一節が引用されていたような記憶があるが、いま探しても見つからない。あれは何の本だったのだろう。それとも偽の記憶なのか。

まあとにかくレルネット=ホレーニアのほうは一段落したので、12月の文学フリマに何か出せるといいなと思って、フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキー=オルランド(FHO)の『さまよえる幽霊船上の夜会』をぺらぺらめくってみた。
おおっレルネット=ホレーニアよりぜんぜん読みやすい! レルネット氏の文体は副文がときに幾重にも重なる特異なもので、もちろんそれが幻想的雰囲気の醸成におおいに寄与しているのだが、しかし読みにくいものは読みにくいとしかいいようがなく、それにくらべればFHO氏の文章は、すくなくとも構文だけでいえばよほど素直であってありがたい。
もっとも今読んでいるFHOはフリードリヒ・トルベルクが大幅に手を入れたテキストだから読みやすいのはあたりまえかもしれない。すなわちランゲン・ミュラー社から最初四巻本で、のちに一巻本で出た例の黄色の本である。そののち1990年代にFHOの原稿そのままのテキストが10巻本の全集で出たけれど、これはまだ怖くて読んでみる気になれない。たぶんすごく難解なのだろうと思う。巻末にはグロサリー(単語表)とかついているし。

アドリア海に岸に住む子沢山の貧乏貴族一家が、十字軍のころに賜った島を首尾よく見つけだして、リゾートセンターを建てたらこれが大当たり。だが奇人変人たちが群れをなしておしよせてきてさあ大変、というところまで今日は読んだ。さてこのあと何が起こるのやら。

【2014/8/2追記 『両シチリア連隊』発売間近につき、ネタバレを避けるために一部艶魔地獄モードにしました。すみません。】