中井英夫を読みつくしたあとは


シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)

すべからくブルーノ・シュルツを読むべし。(もちろん、まだ創元版中井全集を読破していない人はそちらが優先だろうけれども)

七月、父は決まって湯治場に出かけていき、私と母と兄とは暑熱に白いめくるめく夏の日々のなかに置き去られた。光に放心した私たちは休暇というあの大きな書物を一枚ずつ見披(みひら)いていくのであったが、どの頁もちらちらと燃え、その底には黄金色の洋梨の実の気の遠くなるほどの甘みがあった。(「八月」)

まさに「気の遠くなるほどの」酩酊をもたらす中井的文章ではなかろうか。

それにしても、冒頭に出てくる「兄」はこの後全然登場しない。どうしたのだろう。こういうところも中井的。新兵器の設計図とともに潜水艦に乗ったのかな?