ジョン・コリアは難しい(2)

これもけっこう昔の話だ。でも十年はたってないはず。
ラテン文学の泰斗藤井昇氏が逝去された後、都内の洋古書店という洋古書店が「BIBLIOTHECA FUJII」という蔵書印が押された本で埋め尽くされたことがあった。その量も凄かったが言語の種類が半端ではなかった。英語ドイツ語イタリア語ラテン語はもとより、コプト語とかバスク語とかカタロニア語とか、果ては名前を聞いたこともないような言葉まであとからあとから数限りなく放出されて、教則本や文法書のたぐいまで入れれば、言語数は優に百を超えていたと思う。
いちど早稲田進省堂で、満面に笑みをたたえた(そう、文字通り満面に笑みをたたえた)若い人が、「ああ、あったあった! ○○さんに聞いたらここにあるって言うんで急いで来たんですよ!」と店主に言いながら、やはり藤井蔵書と思しき××語(名前さえ知らない言葉)の文法書を、まるでエストラゴン・オゥ・ヴィネーグルでも見つけたように喜んで買うのを目撃したこともあった。へええ、語学ヲタ、じゃなくて熱心な勉強家も世の中にはいるもんだな、と微笑ましく見送ったことであった。
しかしそういう専門書は拙豚にとっては豚に真珠、自分は自分の小さな盃から飲むしかないと身の丈に合いそうな本を選びながら買い漁った中にこういう一冊があった。
 


 
大修館コズモス・ライブラリーという注釈本叢書の一巻で、Green Thoughts, Hell Hath No Fury, Possession of Angela Bradshaw, Variation of a Theme, The Devil, George and Rosieの五作品がおさめられている。注釈者は岩崎良三氏。「サチュリコン」の名訳を遺した人と同一人物かな?


これがGreen Thoughtsの最初のページ。おびただしい書き込みが目をひく。
あの藤井先生もこういうことをされていたんだ〜と思うと感無量だ。自分も精進せねばならぬと思ったことであった。(それともやはり別人の書き込みなのであろうか)