『スペイン黄金世紀演劇集』(牛島信明編訳) ISBN:4815804648


恥ずかしながら某巨大掲示板に首までドップリと漬かっている毎日である。病膏肓に入り、とうとう古典演劇のセリフまでが2ちゃんのレスの応酬に見えてきた。たとえば以下のようなくだりとか(ドン・アロンソ(アロ)はスペインの貴族、モスカテル(モス)はその従者):

モス 与太者には心がないとでも?
アロ もちろんあるさ。[…]だが、ため息をつく行為は貴顕紳士のものと相場が決まってるんだ。
モス すると、その高貴なお人の気持ちをおいらが持っちゃいけないとでも?
アロ 馬鹿も休み休み言え!
モス 旦那、愛より高貴な感情ってあるんですかい?
アロ ないとは言い切れん。だがこれ以上、無駄な議論はしたくないので、一応ないと言っておこう。
(本書p.333-334;カルデロン『愛に愚弄は禁物』第一幕)


主人が従者と、ため口に近い調子でやりとりするところや、「馬鹿も休み休み言え!」と突然逆ギレするところ、それから唐突にギロンが始まっては断ち消えになるところなんかは、まるっきり2ちゃんである。やはりカルデロンは偉大だ! 萌え〜(もっともこんな風に誉められたら地下のカルデロンは嫌な顔をするだろうが…)。しかし例えばシェークスピアの洗練されてはいるが、あまりに予定調和的な喜劇と比較すればその現代性は明らかと思う。
この戯曲の主な登場人物は、男性陣はレオノールを一途に恋い慕うドン・フアン、その親友で漁色家のドン・アロンソアロンソの従者モスカテル。女性陣はヒロインのレオノール、その姉で鼻持ちならない才女のベアトリス、二人の侍女のイネス。まるで合コンのように男女の人数が揃っているが、これは古典喜劇のお約束なのである。誰かの言によれば、「悲劇はできるだけ多くの者が死ぬのをもって良しとし、喜劇はできるだけ多くの者が結婚するのをもってよしとす」。この『愛に愚弄は禁物』も、古典喜劇のお約束に従うならば、ドン・フアンはレオノールとくっつき、ドン・アロンソはベアトリスとくっつき、そしてモスカテルはイネスとくっつくはずなのだが、さてどうなりますやら。
編訳者牛島信明氏の『ドン・キホーテ』の新訳ISBN:4003272110、その素晴らしいリーダビリティの高さとテキストを読み込んだ斬新な解釈によって発刊当時あちこちで話題になったが、この本の牛島信明氏他の訳もなかなか達者で読ませる。上記カルデロン『愛に愚弄は禁物』を担当しているのは佐竹謙一氏だが、貴族の娘に「〜な感じ。」とか「やるじゃないの(p.337)」とか喋らせるのはなかなか斬新でいいと思いました(゜(○○)゜) プヒプヒ。