『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』


 

藤原編集室の『本棚の中の骸骨』ですでに公表されているとおり、『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』の解説を書きました。これは『幽霊島』『恐怖』に続く平井呈一怪談翻訳集成の第三弾です。少し前に東雅夫さんの解説による『世界怪奇実話集 屍衣の花嫁』も、『幻想と怪奇』の平井特集号も、荒俣宏編『平井呈一 生涯とその作品』も出ました。時代はすでに平井呈一ですかね。

まあそれは冗談としても、平井呈一の文章は、絶えず再刊される岡本綺堂と同様、古いようで永遠に新しく、マイナーなようでメジャーで、書店で見かけると思わず手にとらせる魅力を秘めています。

なぜかというと、抜群の文章力を持ちながらそれに溺れず、一行一行に書いた者の魂がこもっていて、それが読者の心に共振するとしか——いやこれもあまりうまく言い当てた気はしませんね。とにかくいわく言い難いものです。

ところで今回はブラックウッドとM. R. ジェイムズがメインです。ウホッこれは良いカップリング! といってもどちらが受でどちらが攻とかそういう意味ではなくて、宿命のライバルが相対してバチバチ火花を散らしている感じです。

解説にも書きましたが、この二人は並べて読むと互いの美質が引き立ちます。怪談の醍醐味を形作る二要素のそれぞれの極を代表していると言っていいかもしれません。平井呈一の名訳ということを別にしても、この組み合わせはまたとない好企画であると思いました。「ブラックウッド? M. R. ジェイムズ? そんな古臭いのもう飽きたよ」という人も、この本を読めば思わぬ発見があるでしょう。