失われた『魔都』断片

 
鏡明の『ずっとこの雑誌のことを書こうと思っていた』を読んでいたら、十蘭の『魔都』の話題が出てきた。この本の中には「マンハント」の編集長だった中田雅久へのインタビューが入っている。中田氏は終刊直前の「新青年」の編集に携わっていたことがあり、その関係で『魔都』のことも出てくる。

なんでも、小説中に入る挿絵が凸凹したりして不定形になっている場合、「新青年」の時代には律儀にその凸凹に沿って活字を組んでいたそうだ。すると字数計算が難しくなるから、予定したページ内に小説の原稿が収まらない場合が出てくる。そんなときどうするかというと――中田氏の話によると恐ろしいことに――小説を勝手に縮める場合があるのだそうだ。

『魔都』の、国書版全集第1巻でいえば、p.314下段11行目から12行目にかけて、場面が不自然に飛ぶ。いままで屋内だったのが、急に崖の下の場面になる。中田氏の推測によれば、「新青年」に掲載されたときの当該ページには面倒臭い形をした挿絵があるので、編集子が字数計算を誤って一パラグラフ割愛したのではないかということだ。

言われてみれば確かにそんな感じがする。原稿でも残ってない限りもはや確かめようもないことであるが……