きたないちいさな穴

 
「ばらばら死体の夜」第二回。

息の詰まるような禍々しい雰囲気だった前回とちがって、この回ではやがてバラバラ死体になるはず(たぶん)の中年男の無気力な日常が語られる。彼には胎内回帰願望のようなものがあって、古本屋の二階の「きたないちいさな穴」にひたすらに魅かれていく。

小説に彩をそえているのが藤田新策画伯の挿絵。先月は「さぼうる」、そして今月(11月号)は「ミロンガ」と、ストーリーとともに神保町風景を点綴させていく趣向は、あたかも濹東綺譚における木村荘八の挿絵のごとし。

濹東綺譚……そう、この「ばらばら死体の夜」は神保町古書街に玉の井遊郭を幻視し現前させた小説でもある。

それをやすやすと可能にする筆の冴えをぜひ味わってほしい。大江匡とちがって、われらの主人公(吉野解という名だ)は無事に逃げ切れることはないだろう。