15歳とかパパイラスの舟とか

 
パリのラ・ミュザルディヌといえば、毎月おびただしい量のエロ本を精力的に刊行している、フランス書院と富士見ロマン文庫が合体したみたいな版元だ。その出版物のなかにジャン=ジャック・ポーヴェールが編集している"Lectures amoureuses"なるシリーズがあって、もう100冊以上出ている。

ポーヴェールと聞くとちょっと期待してしまう。しかし書影を見るかぎりでは、どうもキワモノ臭が強すぎる感じだ。それにしてもこの爺は鞭打ちとか本当に好きなんだな……まさか名前だけ貸したわけでもないだろうし。それにしてもサドの伝記はどうなったのだろう。完結したのかな。翻訳は途中までしか出てないようだけど。

ということで爺の趣味に辟易し、このシリーズはずっと敬して遠ざけていたのだけれども、サディ・ブラッケーズ(ピエール・マッコルラン)の『少女タイピスト Petite dactylo』なる本が入ったので、誘惑抗しがたくちょっとのぞいてみた。もしかしたら『アリスの人生学校』の原題がわかるかもしれないと自分に言い訳しながら。

ここでちょっと脱線だが、小鷹信光氏は、フランスのミステリ叢書「セリ・ノワール」に収録されている英米物の原題が知りたいがだけのために、この叢書を一そろい注文したくなると『パパイラスの舟』の中で書いていた。この『パパイラスの舟』が出たのが1975年、いまから30年以上前のことだ。

ところが昨年小鷹氏が協会賞を受賞したとき、その受賞スピーチでこの話が「私の野望」として改めて語られた。たまたまそれを聞いていた拙豚はわけのわからない感動に打ち震えたことであったよ。

それはさておき、『少女タイピスト』には3つの中篇が収められていて、そのうちの「15歳」という作品の登場人物名とストーリーの流れが『アリスの人生学校』第一部とほぼ一致している。ところが文章はまったく対応しておらず、その意味では翻訳というよりは黒岩涙香式の翻案といったほうが近い。

もちろんマッコルランが同じストーリーと登場人物で別の作品を書いていて、それが『アリス…』の原本だという可能性は残っているから即断は禁物だけれども、ちょうど『幽霊塔』が長らく原作不明とされがらも涙香あるいは乱歩の「作品」として親しまれてきたように、『アリス…』も半ば以上訳者吾妻新氏の作品として見たほうがいい気がする。