学魔見参

 

 
 亀田親子の一件で世間はかまびすしいが、どこかに似た雰囲気の人がいたなあ……誰だったかなあ……と思っていたら、おうそうそう、高山宏御大だったよ。ということで御大の新刊を読んでみました。

 これは足穂の『東京遁走曲』とかカルダーノの『わが生涯』とかチェリーニの『自伝』とかと同じく、大言壮語、精力絶倫、傍若無人の性を持つ一人の男が自らの半生を語るといった趣の本である。しかし読んだ印象は足穂などと大違いで、「超人高山宏のつくりかた」とタイトルにはあるが、むしろ「高山宏の崩れかた」としたほうがふさわしいのではないか。ああ、あの都知事を金属バットでボコボコに、それこそ原形をとどめないまでに撲り倒してミンチに挽いて、我が家の周りをうろつく野良猫の餌にしたらさぞ気持ちよかろうなあ、とかそういった類の殺伐とした読後感しか持てないのはどうもいかんともしがたい。

 もちろん面白くないことはないのだが、それはエリアーデの全4巻の日記の中で一番面白いのは最終巻だというのと同じような、たぶん著者の意図と離れた面白さであるような気がする。


 ところで高山御大が巻末近くで列挙している「これから訳したい65冊」のうち拙豚の持ってるのは四冊しかなかった。世の中にはまだまだたくさん、見たことも聞いたこともない本があるものだ。

 もちろん新本で買えばおそらく一冊につき一万以上するものばかりであるがゆえに、これは全部神保町か早稲田の古本屋で拾ったものだ。しかしこういう本が結構古本で流通しているということは、世にタカヤマ病患者は案外多いのかもしれない。