The Great Return

 
「いやあクラニーはやはり初期作品が一番良かったねえ!」「本邦唯一の怪奇小説家はどこへ行ったのだ」などと言う人に一番読んでもらいたい短編集だ。ここには大いなる来復がある。

クラニー作品系列をつらつらと思い返してみると、「緑の幻影」あたりが一つのターニングポイントではなかっただろうか。いわゆる主人公虐殺ものである。そして今回のこの作品はそれ以前の時代の最良の部分が帰ってきているようだ(もっとも何をもって最良と思うかは人それぞれだろうが)。

舞台と物語は先に出た「泪橋」が発展し、いくつもの小世界に分裂したような感じだが、同時にここに描かれた東京は、実在の地名や建物などを有しながらも、どこか「the end」のあの世界と二重写しになっているような気がしてならない。一見リアリズムと見える背景や人物も実はイマジネールな「わが領土」であるところは、例えば三島由紀夫が百閒の「東京日記」を評したあの言葉がそのまま当てはまるようではないか。

ところで、この短編集全体の雰囲気からすると、どこかで〇す〇ら主人が登場するのではないかと期待したがついに出てこなかった。某氏に言わせると「そんな人が出てきたらホラーではなくテラーになってしまう」から登場を自粛しただそうだ。「あの酒場ならもう虚無トリビュートで出てきたからもういい」と言った人もいた。それは〜何かの〜勘違いでは〜〜