やっと冬コミ合わせ新刊ビブリオテカ・プヒプヒ#5 エーゴン・フリーデル「タイムマシンの旅」*1のテキストが完成。これから校正・レイアウト・印刷・製本です。果たして明後日の朝までに全部できるのでしょうか。それは誰にも分かりません。
本書はウエルズ「タイムマシン」の後日談です。作者はウイーン生まれのユダヤ人で、ナチス・ドイツのオーストリア併合(1938)の三日後に投身自殺しますが、これはその直前に執筆されたもののようです。終戦後の1946年に始めて活字になりました。今でもペーパーバックで手に入ります。
物語は、作者エーゴン・フリーデルがH.G.ウエルズに向けて、「タイムマシン」の結末で旅立ったタイムトラベラーはその後どうなったのか、と問い合わせるところから始まります。そしてウエルズがよこした返信はフリーデルを憤激させるに十分なものであったのでした。ここらへんのやり取りはこの小説では戯画化されて描かれていますが、実際にもフリーデルはウエルズにライバル意識を持っていたようでした。ここで本書よりちょっと引用:
ウエルズ氏は三巻物の「世界史」を執筆し、私も三巻の「近代文化史」を書いたのだが、これが契機となって、あるイギリスの批評家が私はドイツのウェルズであるとの見解を披露した。ウェルズ氏はこれを読み――物書きというものは、自分について書かれた印刷物を全て読んでいるものである、たとえ本人がそんなことはないと断言したときでさえ*2――自然その無神経な批評家と疎遠になった。そして彼の敵意が――私自身はこの侮辱の偶発的な要因にすぎないとはいえ、人間の性のしからしむところとして――疑いなく私にまで転移してきたのである。それに付け加えるに、氏の歴史書のドイツ語訳が拙劣なのにひきかえ、我が著作の英訳は非常に優れていて、私は自分でそれをまたドイツ語に翻訳しようかと思ったほどだったが、このことも氏を刺激したのかもしれない。(中略)
しかしながら、次に述べることには全く疑問の余地はない――私がこう言ってもそれは嫉妬からではなく十分客観的な立場からなのであるが――ウェルズ氏の歴史書は私のものよりずっと非学問的であり、私の作は非歴史的であろうと大いに努力したにもかかわらず、氏の作よりも即物的かつ専門的に書かれており、それゆえ、より大きな成功をも勝ちえたのであると。氏は狭い特定分野、すなわちディレッタントによる歴史執筆という分野では私のライバルであり、のみならず手ごわい強敵である。だから私も手心を加える必要は認めない。
いやはや……どこまで本気なのか……しかし、ウエルズの世界史はほとんど顧みられないのに対し、フリーデルの「近代文化史」が今なお広汎な読者を獲得しているのを思うと、このフリーデルの自負はまことに正当であったといわねばなりません。
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この画像は翻訳していた間繰り返し聞いていたPavlov's DogのCD。この二枚(1stと2nd)の他に、真っ赤なジャケットの3rdも出ている。ことごとく名盤なり。