The Asagure-Hoax

 

実験小説 ぬ (光文社文庫)

実験小説 ぬ (光文社文庫)

 
異形コレクション」に執筆された作品を中心に纏められた短編集。「実験小説」といういかめしい角書きとは裏腹に、くつろいで読める楽しい本だ。この楽しさがどこから来るのかかと、ちょっと考えてみたが、一つには著者の他の作品にも共通する、「世界に対する身構えのなさ」がアットホームな雰囲気を読者との間に醸し出しているのではないか。たぶんこの著者は、カフカの「城」や倉阪鬼一郎の「the end」みたいな、異化された世界を主人公があてどなくさ迷うといった話は間違っても書かないだろうと思う。
もう一つは、作者に流れているとおぼしい、ホラーの血ならぬ「ほら話」の血である――例えば『ミュンヒハウゼン男爵』やアメリカのTall Tales、あるいはエドガー・アラン・ポー流のHoaxと共通するような。この「ほら話性」は、特に変にひねらずストンと落ちる落ちに顕著に現れている。山なし落ちなし意味なしのままいさぎよく終わる物語。

浅倉久志編『ユーモア・スケッチ傑作選』を愛読した人には一押しの本だと思います。
(そうそう、それから豊崎由美も解説で触れている「カヴス・カヴス」はちょっと凄かった)